新ガラマニ日誌

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四人の署名[シャーロック・ホームズ]コナン・ドイル著 阿部知二訳

四人の署名 シャーロック・ホームズ

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ホームズシリーズ、第2巻。発行は、1890年。これも、第1巻「緋色の研究」と同様、長編小説である。ワトソンが、依頼人女性に恋をしてしまうので、語り手が、時々オカシクなるのが、絶妙におもしろい。

第1巻で、アフガン帰還兵ワトソンは、ルームメイトを探していた青年、シャーロックと出会い、そいつにだまくらかされて、ベイカー街のお二階で、同居することになった。

同居するにあたって、シャーロックが、自分はヘビースモーカーだとか、ヴァイオリンを弾くとか、それでもいいかな?と、ワトソンに了解をとっていた。しかし、それらの自己紹介が、大嘘のコンコンチキだったと、第2巻の冒頭から、明らかになるのである。本当の悪癖を、ナイショにしておいたのだ。痩せても枯れても、一応、ルームメイトは、お医者さんだからだ。

ジョン・ワトソンは、こう述懐している。阿部知二たん翻訳による、ナイスガイなふたりのやり取りを、とくとごらんあれ!

だが、その午後は、昼食のとき飲んだボーヌ産のぶどう酒のせいか、それとも、彼の極端におちつきはらった態度が、ついに私の堪忍袋の緒を切らせたものか、とにかく、もうこれ以上はとてももちこたえられぬ、ととつぜんに感じたのである。

「きょうはどっちだい」と私はたずねた。「モルヒネかい、それともコカインかい」

彼は、ひろげていたゴチック字体の古い書物から、ものうげに目をあげた。

「コカインだよ」という。「七パーセント溶液だ。君もやってみないか」

「いや、ごめんだね」私はそっけなく答えた。

ワトソンが、おれはヤクなんかやらねーよ!ばーか!ばーか!と断ると、シャーロックは、おもしろがってニタニタしながら、コカインはいいものだ、思考がスッキリするんだよと、反省の色もないのだ。

「しかし考えてもみたまえ!」私は真剣になっていった。

「ただじゃすまないんだぜ!(中略)これは単なる友人どうしの忠告じゃなくって、医者としてのぼくが、ある程度健康上の責任を負わねばならぬ相手に向かっていうのだと、承知してくれたまえ」

どうです、このしゃべりかた、言い回し。阿部知二たんの翻訳は、青年ふたりのナイスガイっぷり(特にワトソンがナイスガイ)を、十二分に表現し、かつ、読みやすく痛快で、数あるホームズシリーズ翻訳版の中でも、俺が絶賛おすすめしたいものである。

紙媒体の創元推理文庫阿部知二訳本は絶版だが、電子書籍版なら、安いし、いますぐ読める。この春、ホームズシリーズを全巻、読破していた2週間あまり、俺はとても幸せに満ち足りていた。「本が人を選ぶ」という、古い短いことわざがあるが、ドイルと阿部たんが、俺を呼んでくれたのだと思う。