小田原・鎌倉旅行記(2)小田原文学館には首藤剛志さんの展示があった
小田原城は広い。天守閣を出ると、お猿さんを飼っている大きな檻があり、ウキーウッキー言いながらこの門を出て、お堀周辺を散策するに、ウキウキウッキーである。
様々な娯楽施設が点在する、小田原城公園の中に、こういうものがあって、驚いた。
なんだこれは。いや、わかるけど。木馬バインバインする遊具でしょ。でもね。古くて、塗装がハゲてて、あんよがもげていて、ヒッジョーに、いい味を出しとるね。
お城から出ると、徒歩圏内に、幾多の名所がある。まずは、
黒田長成(くろだながしげ)さんの別荘で、現在は喫茶施設完備の、清閑亭だ。
清閑亭(せいかんてい)、その名にふさわしく、涼やかで、居心地のよい、たたずまい。入館は無料で、飲み物は、当たり前だが有料。お靴をぬいで、お座敷に上がります。
炎天下の中、実は俺、帽子をかぶらず、日傘も持たずに来ていた。なんでそんな暴挙に出たのかというと、雨模様だったので、で、被り物は、出先で買えばいいと思って…。この後、旅行中にその買い物は実現するが、小田原では、無謀にも無帽で、歩き続けた。
俺の、小田原での、一番のお目当ては、次に向かったところである。
小田原文学館だ。
俺がこの門をたたいたのは、平日のお昼時だった。館内は、俺ただ一人だった。俺の特に好きな作家、坂口安吾たんの展示があることは前もって調べて、ここに赴いた。文学館になっている建物は、田中光顕(たなかみつあき)さんの別荘だ。昭和12年に建てられた、このおうちは、とってもモダン。
ただ…俺は、ぜんぜん知らなかった。俺は、フウンフン、鼻歌うたいながら、ヒョイヒョイと廊下を歩き、この文学館を、見て回っていた。坂口安吾や北原白秋、北村透谷などの、本や原稿用紙や写真や、彼らは、いわゆる文士、文豪である…。いわゆるそういう存在は、学校の教科書で習い、俺が生まれる前に、この世を去っている、俺にとってみれば、歴史上の人物であり、書籍の中の住人である。
俺は、小さく声をあげてしまった。
「えっ。」
ひどく驚いた。
「なんで、こんなところに、ミンキーモモの台本があるの?」
なんで、北村透谷ら、むかしむかし死んだ人達に並んで、俺が小学生時代に大好きだったアニメ、「魔法のプリンセス ミンキーモモ」の資料が、展示してあるのか。
よく知っている。ミンキーモモの作者は、首藤剛志(しゅどうたけし)さんだ。多くのヒット作を作り上げた、アニメ脚本家だ。うん、だって、「戦国魔神ゴーショーグン」は特に好きで、小説本も持ってるし、WEBアニメスタイルでの連載コラムも、俺、読んでたよ。ついこないだも、読んでたよ…。
文学館の屋上は、テラスになっていて、そこに一人、出た。海が近く、浜風が、強く吹いていることを顔に感じて、汗をかいた髪が、ほほに張り付いた。
首藤剛志さんは、亡くなったのだと、その日、俺は初めて、実感として理解した。
小田原文学館には、首藤剛志さんの展示があったからだ。
海岸地帯は、文学館に代表される、別荘地帯であり、豪邸が立ち並んでいた。俺は、小田原駅へと、歩き出した。
脇にかいた汗は熱かったが、ほほに、ひとすじ流れ出た涙は、温かかった。