新ガラマニ日誌

ガラリアさん好き好き病のサイトぬし、ガラマニです。

回想のシャーロック・ホームズ コナン・ドイル著 阿部知二訳

回想のシャーロック・ホームズ (創元推理文庫 (101-2))

SONY Reader ver

ホームズシリーズ第4巻。発表は1893年

ホームズ本第1段の『緋色の研究』、つづく『四人の署名』は、それぞれ単行本一冊分の、長編ストーリーである。

エゲレスの月刊読み物雑誌「ストランド・マガジン」は、この探偵小説を連載ものにすべく、コナン・ドイルに、一話完結の短編で書くよう依頼。連載化したとたん、この名探偵は、一躍、同誌の一番人気になった。

雑誌連載した短編の、単行本化、1冊目にあたるのが、先に紹介した、『シャーロック・ホームズの冒険』である。「赤毛連盟」、「まだらのひも」、「青い紅玉」などを収録している。

『回想のシャーロック・ホームズ』は、短編集の単行本化、2冊目にあたり、シリーズ4巻目にあたる。「銀星号事件」、「黄色い顔」、「ギリシャ語通訳」、「海軍条約事件」など、シリーズ屈指の重要エピソードを多数、収録している。ホームズ人気が、絶好調の時期なわけだ。

…で…

…で、ですよ。作者コナン・ドイルは、こう思っていた。

シャーロック・ホームズの小説なんか、もう、書きたくない。ホームズの雑誌連載なんか、やめてしまいたい。

そうだ、ホームズ殺そう。

そうだ、京都行こう。JR 東海。ピンポン ピンポン

雑誌連載をやめてしまいたい作者によって、ホームズ抹殺の使命をたくされたラスボス、モリアーティ教授は、こうして、『回想のシャーロック・ホームズ』の最後のエピソード、その名も「最後の事件」において、唐突に登場するのだ。

われわれ、後年の日本の読者は、ストランド・マガジン誌で、リアルタイム連載で読んでいたホームズファンとはちがい、ホームズシリーズが、『回想のシャーロック・ホームズ』で終わるわけではないことを、知っている。知った上で、このシリーズ4巻目を手にとる。ソースは、小学校の図書館に置いてあるホームズ本の背表紙である。『シャーロック・ホームズの生還』、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』、まだ続くんじゃん、と、本棚で見て、先に知ってるんである。

駄菓子菓子!

19世紀当時、ストランド・マガジンを、毎月毎月、楽しみに定期購読していた、ホームズ愛読者のみなさんは、いったい、どう感じたことだろうか。イギリスの善男善女は、人気絶頂の連載小説の主人公が、超人的な能力をほこる我らがシャーロックが、「最後の事件」で、本当にとつぜんに登場した宿敵、モリアーティと格闘したすえ、ライヘンバッハの滝に落ちて死ぬなどという、いきなり最終回を、受け入れることが、できただろうか。

できるわけがない!!

ふざけんな作者 死ね コロス もどせー! ホームズを、かわいそうなワトソンのもとへ、もどせー!!ギャー

『回想のシャーロック・ホームズ』に載っているエピソードを、ひとつひとつ順番に、読んでみた。続きがどうなるかわからなかった、雑誌連載の購読者の気持ちになって、読んでみた。

これはひどい。ドイル、ひどすぎ、唐突すぎ。

ホームズの映画や、テレビドラマでは、宿敵モリアーティは、物語の早い段階で、その存在をにおわせる。21世紀のロンドンを舞台にした連ドラ、ベネディクト・カンバーバッチくんの「SHERLOCK」では、第1話からすでに、モリアーティは、難敵として、その名を印象づける。

しかし、原作のモリアーティはちがうのである。『回想のシャーロック・ホームズ』に収録された短編、11編の最後、「最後の事件」で、いきなり登場し、いきなり、ホームズ殺すのである。モリアーティは、存在感なさすぎのラスボスなんである。これでは、作者は、読者から、呪いの手紙を矢のように受けても、しかたがなかんべ。