新ガラマニ日誌

ガラリアさん好き好き病のサイトぬし、ガラマニです。

ガラマニ日誌〔18〕04/5/22(土)「県立ガラマニ高校 ~美術部編~」

俺の楽しかった、俺の世界、高校時代について、おおいに脚色しながら語るシリーズ、今回は、部活動編である。

~登場人物紹介~

・ガラマニ (1年生部員。)

・ナルシー先輩 (3年生男子、部長。稀代のナルシスト。赤坂晃系の男前。)

美術部四天王 (2年生男子)

・和光先輩 (副部長。重度のシスコン。ナルシスト。長身で痩せぎす。やや男前。)

・濃い毛先輩 (重度のロリコン。ナルシスト。寸づまりのでぶ。ブサイク。)

・ミリタリー先輩 (重度のシスコン。メカ関係担当。長身で痩せぎす。ややブサイク。)

ハリネズミ先輩 (まとも。髪型がツンツンで、小柄なのでこの名がついた)

・ゲル (美術部顧問教師。当時30代男。重度のロリコン。ナルシスト。)

…県立ガラマニ高校の同窓生が、もしこのサイトを見ていたら…丸分かりだが…
…ゲルには、ナイショにしてくれ。すまんが、頼んだぞ。

学校生活の半分は、学科の授業で、残り半分が、このメムバから成る、美術部での、生活であった。

我が校の、美術部は、上記のような、一癖も二癖もある、いや、こんな表現では生やさしいな。よりによって、なじぇこの高校に、こんな、校則の厳しい、学力ランクで言うと、中流の、我が校に、なじぇこのような、濃いメムバが収集されたのか、この因果はなんであるかと、卒業後、何年経っても、忘れられないやつら、それが、ガラ高美術部なのである。

放課後、部員たちは、三々五々、部室へとやって来る。

部室である、美術室は、4階建ての校舎、北舎の1階にあり、ドアを隔てた隣室に、ゲルの住む、美術準備室があった。ゲルは、ガラ高に唯1人の美術教師である。この、美術室と、準備室が、我々、美術部員の、アジトだ。

特筆すべきは、ガラ高の、大きな校舎は、2つだった点である。

南舎には、1階に職員室等の、校則を取り締まる側のアジトがあり、2~4階が、1~3年生の、教室で埋め尽くされている。つまり、南舎は、先生方の目が、周到に行き渡る。

一方、南舎と、渡り廊下で連結してはいるが、距離的に離れている北舎には、
我が美術室の他、理科室や音楽室といった、文科系部活動のアジトがあった。つまり、放課後の北舎は、文化を愛し、校則を嫌う者たちが、遊び集える、煩悩のワンダーランドだったのである。

もちろん、各部活動には、顧問の先生がおり、校則にウルサイ先生が顧問だと、<自由な文化活動>が出来ない部もあったわけだが、

幸いな事に、我が美術部顧問であるゲルは、
自身、前衛芸術家であり、自由人であり、素晴らしき社会的逸脱者だったので、
我々、美術部員は、自由に文化を、煩悩を謳歌する事が、出来たのだ。

ありがとう、ゲル。まずは、感謝の意を、表明しておく。

さて、俺が部室に入ると、まだ女子しかいない。
我々女子部員は、お気に入りの場所に、陣取り、仲良し同士での、おしゃべりに興ずる。カンバスや絵の具箱は、一応ポーズで出すが、ほとんど誰も、絵を描き出す事は、ない。まずは、おしゃべりだ。

ガラ高美術部には、体育会系部活に見られるような、厳しい年功序列制度が、なかった。なにしろ、先生であるゲルへの礼節が、ほとんどない状態なので、おのずと、先輩・後輩の仲も、ダルダルになっていった。

俺は、仲良しの1年女子数名と、おしゃべりし、離れた場所では、2、3年の女子が、カンバスを置いた前で、各々、おしゃべり。別チームの話題が、面白いと、聞き耳を立てたりはするが、俺は、女子の先輩たちと、細かく話した記憶は、あまりない。

放課後間もない美術部には、こうした、女子部員の姿だけが、まずある。

そんな中、女子の先輩にも、キテレツな方が、おられた。
…彼女、妙な癖が…あるのである。

ガラ高女子は、厳しい校則下であるから、見た目派手な子は、1人もいない。おしゃべりな美術部にあっても、大騒ぎするほどの声量ではない。音量としては、割りと静かだ。

広い美術部で、絵を描くフリをしながら、さわさわとお話ししている、見た目大人しい女子たち。

ところが…お話しする声に混ざって、妙な声が…
先輩の彼女が、絵筆を握ったのだ。すると。

「♪上野発の~夜行れぇっしゃ~降りたときかんらぁあぁぁん~」

油絵を描きながら、演歌を歌うのが、彼女の癖なのだ。

「♪青森ぃ~駅んは~雪ぃぃのなかぁぁああああ~」

コブシが効いている、彼女の演歌が始まると、ああ、先輩が、手を動かし始めた、我々後輩も、絵ぇ描かんといかんな、と思うのだった。

演歌の流れる美術室、隣りの準備室には、ゲルがいるわけだが、ゲルは、たびたびドアを開き、こっちに来て、

ゲ「おー、しゃべってばっかおらんで、製作せないかんぞ」

とは、言うものの、彼には、部員指導などより、もっと嬉しい趣味があるので、準備室に戻り、こもってしまう。なぜか。

こもって、写真を撮っているのである。なんの?

部員ではない女子生徒(美少女限定)の写真を、である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゲルには、3年生の、お気に入り美少女がおり、

「絵のモデルになってほしい」

と、合法的に勧誘し、我ら部員一同が、隣室にいると言うのに、なんら遠慮なく、準備室の、窓、ドア、全てに厳重な鍵をかけ、カーテンを閉め、美少女と2人きりになり、たてこもり、シャッターを、パシャウィーパシャウィー、やっているのだった。

それだけなら、まだいいが(よくないが)、ゲルは、現像した、3年生美少女写真を、

我々、女子部員たちに、見せびらかし、ヌケヌケと感想を求めるのだ。

ゲ「この写真なんか、どうや、あの子の良さが、よう撮れとるやろう」ヌケヌケ

制服美少女写真に混じって、花々の咲く屋外での、私服の彼女の写真が、ある。

俺「…先生、この風景は?準備室ではない…公園…どっかで見たような…」

ゲ「おう、椿園(仮名)や。」ヌケヌケ

椿園とは、ガラ高から、はるか遠い、ガラマニ県の名所である。

俺「椿園に…あんな遠いとこへ、いつ、行ったんです?」

ゲ「日曜や。」ヌケヌケ

わざわざ、休校日に、車で、生徒を、遠方に連れ出して、撮影会…2人きりでかい…

※ちなみに、ゲルの愛車は、ゲル車(げるしゃ)、又はゲルシティーと呼ばれていた。

顧問が、こんなんであるから、部室へと、女子に続いて、やって来る男子の先輩方は、煩悩全開であるのは、言うまでもない。


おや、まずは美術部四天王の、お出ましだ。

四天王の筆頭、副部長の、和光先輩は、今日も、コムサ・デ・モードの、大きめな茶色い紙袋を抱えている。

当時は、DCブランドの全盛期。和光先輩は、メンズコムサなお方であった。コムサのロゴ入り紙袋なんか、抱えていたら、ガラ高では当然、校則違反なわけだが、彼は、わざわざ、ロゴ袋の上を、無地の紙で四角くくるみ、生活指導の先生には、

「家で描いてきた、課題の絵です。美術部ですから」

と言い、部室に来る際には、ロゴを見せびらかして、来るのだ。
そして、コムサ袋の中には、なにも入ってないのである。

濃い毛先輩も、来た。今日は、なんの本を持って来たのだろうか。彼の、持ち物検査、かいくぐり術は、いまだもって謎である。いったいぜんたい、どのような方法で、あれら重度の違反物を持ち込み出来るのか。

おや、濃い毛先輩が、俺を呼んでいる。

濃「ガラマニさん、こっち来て。これ、見て。こういうの、どう?」

写真集だ…またか…濃い毛…

『綾子13歳』(仮題)…ページをめくると、当時、確か解禁でなかったはずの、

ヘアーが。股が。アソコの毛が。ひだが。モロ出しですが、濃い毛先輩。どう?って聞かれても。

俺「13さい…この子…中学行ってるんでしょうかね…」

濃「そういう、夢のないこと、言っちゃダメだよ。」

夢って言われても、先輩。

俺「…13歳、系が、イイんですか。普通のエロ本の、20歳以上とかは?」

濃「だめだめ、満15歳以下でないと、女じゃないから。」←俺、当時満16歳なのでアウトです

続いて、ミリタリー先輩、ハリネズミ先輩も、やって来て、美術部四天王が勢ぞろいすると、あぁ、ガラ高美術部だなぁ~という、気持ちになるのだ。

濃「土曜日の、ゼータ。カクリコン死んだな。」

和「死に際に、アメリアーって叫んだろ。女のさ、裸っぽい後ろ姿が出たとこ。恋人だな。いや、愛人か。なんか、すっげーいいよな、カクリコン。俺、あそこでグッときた。ワンシーンで、一気にカクリコンの世界に引き込んだよな、すげえよ。演出が毎度すげー。」←同感です、和光先輩。

濃「こ、恋人いたんだな、カクリコン。やってたんだな…」←やってたんだなって、当然でしょう、濃い毛先輩。

ミ「でさ、マークⅡのうんたらかんたらが、前作のキャノンのうんたらがさー」←俺、判読不能です、ミリタリー先輩。

ハ「(無言)」←ゼータ見てないのかな、ハリネズミ先輩。

濃「…カクリコン、やってたのか…」←カクリコンは大人の男なのですよ、濃い毛先輩。

和「でもよ、ゼータの絵だとさ、シャアが、シャアぽくない気しんか。
 クワトロ大尉、肩幅とか、広すぎくね?顔ものっぺりしててさ。俺、絵は前のが好きだ。」←同感です、和光先輩。

※当時、ファーストガンダムという呼び方はなかった。今のガンダム=ゼータ、前のガンダム=ファースト、である。

ミ「でさ、やっぱリック・ディアスが量産のうんたらでジムのうんたらがコンバーターでうんたらでさー」

ハ「(無言)」

濃「…カクリコン、やってたのか…」←童貞、いつまでもゆってます

このように、俺、高1当時に、ゼータガンダムの本放送だったので、美術部内は、アニヲタトーク全開であり、ヲタの巣窟となったのは、言うまでもない。これは、ガラ高に限らず、全国的現象であったに違いない。寄ると触ると、アニメや、マンガや、同人誌の話しである。

当然、俺が、女子仲間と話すのも、こういう系統の話しが、多かった。
人類必読マンガ、『日出処の天子』を、俺に知らしめた女子も、美術部の仲間であった。


四天王のおしゃべりは、我ら女子部員や、その他、いたのかいなかったのか記憶に乏しい、俺と同学年の男子後輩の居並ぶ前で、堂々と、繰り広げられていく。

和「姉貴がよー。」

出た。和光先輩の「アネキがよー。」だ。
彼は、重度のシスコンで、姉貴がよー、こう言った、とか、姉貴がよー、こうした、とか、我々、女子が聞いていたら、珍しくもなんともない、女性的生活について、熱く語るのだ。

和「姉貴がよー。昨日、俺の部屋に来てさ、俺の服、貸してくれって言うの。男もんでも、コムサだからさ、いいもんだから、着て出かけて。結構、似合うんだよ、姉貴に俺のコムサがよ。」

メンズコムサの、白いブラウスなんて、ただの白いブラウスだから、誰が着たってイケるんであるが、17歳の和光クンにあっては、少しだけ年上の、美しいお姉さんが、自分のブランド服に興味持ったっつーだけの事が、たいへん嬉しいらしく、ウキウキ語っている。

ミリタリー先輩は、その名の通り、四天王にあっては、メカ関係以外、口数の少ない、おとなしやかな人であった。が、

ミ「妹がさー。」

出た。ミリタリー先輩の「いもうとがさー。」だ。
彼は、重度のシスコンで、妹がさー、こう言ったとか(以下略

和光先輩と、ミリタリー先輩は、濃い毛先輩みたいなロリヲタ+セクハラではない紳士だと、安心してもいられないのが、四天王の四天王たるゆえんである。
この2人の「姉貴がよー」と「妹がさー」の連打は、彼らが卒業するまでえんえんと続き、内容が、上記のように、俺の耳には、くだらなさすぎ、長すぎで、
何かにつけては「姉貴がよー」「妹がさー」
和光先輩が姉貴を礼賛すれば、負けじと、ミリタリー先輩が妹を礼賛、
何度も何度も、ずーーーーーーーーっと、

和「姉貴がよー。」

ミ「妹がさー。」

この、2つのフレーズは、俺の耳について、一生涯、離れないと思われる。いやだなぁ。

そして。

おや、今日も、トリでやって来たのは、3年生の部長にして、ガラ高美術部の、ナルシストの大本じめたる、

ナルシー先輩だ。細身の体に、ぴったり合った、黒い学ラン、両手をズボンのポケットに突っ込み、ふさふさと前髪をなびかせ、手には何も持たず。仲良しの、四天王に、まずは声をかける。

ナ「おう。」

四天王「おう、ナルッつぁん。」←2年生なのに、3年生にタメ口。

ナルシー先輩の、稀代のナルシストたる、発言は、枚挙に暇が無い。書ききれない。

彼は、自身を、モテてモテて困る美男子だ、と言う。

ナ「おう、濃い毛。またロリ写真か。そんなの見てるからだめなんだって。ハン、女はやってなんぼだって。俺なんか昨日もたいへんで。日曜だし、彼女がホテル行きたいってせがむから。ハッハッハ。女子連が妬くから、後で話すな。ハッハッハ。で、濃い毛、早くその本貸せや。」

彼は、自身を、世界に冠たる天才芸術家だ、と言う。

ナ「天才は、努力しないでいーの。ハッハッハ。ま、たまにはデッサンぐらいしてやってもいいか。おう、和光、ゲルんとこからジュリアン持ってこい。」

※ゲルんとこ=準備室。 
※ジュリアン=ミケランジェロ作、ジュリアノ・メディチ像。ガラ高美術部所有の石膏像では、最も男前。

ナルッつぁんは、石膏デッサンを描きながら、俺たち女子に、聞こえるように、

ナ「なかなかの顔だが…ジュリアン…俺の勝ち…フフフ」

と、ブツブツゆうので、後輩たちは、笑いを噛み殺しながら、あれは本気なのだろうかと思いながら、ナルシー先輩をご満足させるために、聞こえるように、
「素敵よね」とかなんとか、女子同士でおしゃべりしているかのように、言うのだ。
この場合の「素敵よね」とは、
ナルシー先輩の、ナルシシズムには果てが無いのが素敵よねという意味だが、
ナルシー先輩の耳には、自身のルックスへの、賛辞となって聞こえ給う!

彼は、余裕で、東京芸大デザイン学科に受かると豪語する。

ナ「ま、実技は余裕でクリアーとして、唯一、ややネックなのは英語かな。
  ま、本番前1ヶ月もありゃー、イイ線いくはず。」←言うまでもないが、彼は落ちた。


ナルシー先輩の不在時に、和光先輩が語ったところに拠ると。

和「ナルッつぁんはさ、
あんなんだから、自分のクラスに友達いないから、
ここ(美術部)に来て、俺たちに威張りちらすだけが、高校生活でのやすらぎなんだよ。だから構ってやらないと、かわいそうなの。ガラマニさん、俺たちがいない時は、ナルッつぁんのよいしょ、適当に頼むよ。」

俺「はい…。テキトーに、ナルシー先輩すごーい、とか、尊敬しちゃうーとか、ゆっときます。」

和「頼むよ。よいしょしとかんと、あれ、すねるから。」

こうして、後に副部長となった俺は、

1年生時、ナルシー先輩のナルシシズムの世話、
1~2年生時、濃い毛先輩のロリの世話、
1~3年生時、ゲルのロリの世話、

ず~っと、困ったちゃん男どもの世話に、明け暮れたのであった。

さて、では、ガラ高美術部は、ヲタトーク、ロリトークばかりで、製作熱心でなかったのかと言うと、そうではない時期があった。
県展や市展、高美展(地区の高校美術部展覧会)などの、搬入が近付くと、部室内は、一気に<締め切りに間に合わない>モードとなる。

百号のカンバスに向かい、油絵を描いている部員の中には、筆でチマチマ塗っていたら間に合わないと考え、手のひらに、油絵の具をダップリとり、カンバスにぶちまける者もいた。俺だが。

デザイン画を描こうとする後輩は、水貼りの名手、和光先輩に、上手な貼り方を教えてもらっている。

※水貼り:みずばり。木製のボードに、画用紙を水だけで貼り付ける技。つまり下準備なので、締め切り間際にする事ではない。

ケツに火がつかないと絵ぇ描けないタイプではない、既に搬入作品を仕上げてしまった、よいこ部員は、ナルシー先輩の、デザイン画の、彩色の手伝いをやらされている。

そう、天才芸術家ナルシー先輩は、搬入日までに、さんざんサボるのは勝手だが、間に合わない作業を、手下にやらせるのである。
『作・ナルシー 県立ガラマニ高校 3年生』と標示されたデザイン画は、数名の女子部員たちの筆入れからなる大作である。彼女たちは、ナルシー先輩から、報酬は貰える。明治ブリックパックのコーヒー牛乳1個が、手間賃だ。

※明治ブリックパック=紙パック入り飲料。ガラ校内にある、唯一の自販機の、唯一の、校則違反でない既成飲料品。 白牛乳、いちご牛乳と、コーヒー牛乳の3種のみで、甘いコーヒー牛乳が一番人気であった。 ガラ高内の通貨単位。生徒間で、宿題見せてくれ等の頼み事をする際、
 「コーヒー牛乳1個で頼むよ」
 「いいや、2個だ」
という取り引きが、交わされていた。

ナルシー先輩には、確かに才能があったと思う。
弟子たちを上手く振り分け、色塗り等をさせ、大作を創る手法は、ルネサンス時代に、前出のミケランジェロも行っていた、工房形式と呼ばれる手法である。

こうして、普段、遊んでばかりの部員たちは、搬入日ギリギリまで、製作に没頭し、ようやく完成すると、ゲルがゲル車で運び出す。

搬入が済むと、次に、我らがスルのが、部室の大掃除である。

締め切りまで、全員が、油絵、彫塑等の立体、アクリル絵の具でのデザイン画等々を、製作する行為だけに、血まなこになっていたので、美術室の白い床は、ゴミが散乱し、油絵の具や、アクリル絵の具まみれになっている。
特に、油絵の具が多くこびりついた床。

…水彩絵の具とは違い、これは、水拭きでは、決して落ちないのだ…

ゲルが、我々に掃除を命じて、準備室から出て行ったのを、確認すると、和光先輩が、号令を発する。

和「準備室の、棚の、あれを使うから、みんな、ぞうきん準備しといて。」

部費や、シンナーといった、美術部員にとって、とてもとても大事な素敵なものは、ゲルの監視下、準備室の、鍵つきの棚に入れてある。
ゲルは、あくまで掃除用としての、ラッカーシンナーの使用は許可したので、副部長の和光先輩は、渡された鍵で、すてきな大瓶入りシンナーを、美術室に持って来た。

最初、部員たちは、ぞうきんに、瓶のシンナーを、少しずつ含ませて、床にしゃがんで、汚れ部分だけを、拭き拭きしている。

…この作業が、とても楽しい…少量のシンナー臭であっても、もともと、シンナー臭大好きっ子である美術部員たちは、キャハキャハ、笑いあいながら、例によって、マンガやアニメの話しをしながら、苦しかった搬入の疲れを、この楽しき大掃除にて、癒すのだ。

癒すだけなら、まだいいが。

俺「この絵の具、こびりついて、なかなかとれないね。このペースで拭いてると、いつまでかかるか、わからんねえ」

他の女子「絵の具の飛び散り、いっぱいだね。シンナー足りないね」

後輩たちの、この台詞を、待っていたかのように、和光先輩が叫んだ。

和「撒け!まいてしまえ!」

濃い毛先輩ら、四天王が、つるつるの床に、瓶から、ドボドボと、シンナーを撒き始めた。

濃「おぉッ、イイねえ。これだね。あーイイ匂い。これヤルと、搬入終わったなァーって気分。」

ミ「こっちにも貸せよ。あー、効いてきた。」

とても楽しいが、心配事がある。俺は、和光先輩に申し出た。

俺「せんぱい。これではシンナー臭が、」

和「シッ。ミノフスキー粒子って言うの。」

俺「あ、ええ、これではミノフスキー粒子の匂いが、強すぎて、廊下に漏れて、他の部の先生とかに…バレる恐れが。せんぱい。」キラリーン光る目

和「うん、まったくだ。よし、みんな、窓、ドア、完全密閉!外に漏らすなよ!」キラリーン光る目

ミノフスキー粒子=元々の意味は、このサイトを読んでるおともだちには、解説不要と思われるが、わからないおともだちがいらしたら、検索して下さい。ここでは、シンナーシンナーと、美術部内で発言していたと、校則取締り当局にバレないように、室内に充満するにほひを、隠語で表現したもの。

普通人が、どうしてもシンナーを使う必要がある場合、換気を良くして、シンナーをなるべく吸い込まないようにするらしいが、ガラ高美術部では、室内は完全密閉で、

和「これで安心だな。よし、濃い毛、もっと撒け!」

である。すてきなシンナー大瓶は、濃い毛先輩が撒き、後輩に手渡され、皆が、手元に足元にと、撒く。

濃い毛先輩もミリタリー先輩も、後輩たちも、楽しくお掃除して…次第にラリって。

ミ「ミノフスキー粒子、まだ薄いよ。前回の搬入のときは、もっと良かったじゃん」

和「おう、もっと濃くしよう。ガラマニさん、その瓶、使っちゃっていいから、もっと撒いて。」

依存はまったく無いが、心配事が、まだある。

俺「せんぱい、でも。シン…ミノフスキー粒子の、この瓶がからっぽになってたら、ゲルが。空き瓶を棚に戻して、ゲルが見て空だったら、ヤバいのでは。」

これへの、和光先輩の指示は。

和「水、入れとけ、水!どうせゲルは、シンナー使うような仕事せーへんから、気がつかん!」

である。

そんなすてきな大掃除も、終盤になってきた。四天王の唯一の良心こと、ハリネズミ先輩が、黙々とゴミの片付けをしていたハリネズミ先輩が、俺たち後輩に、優しく、こう言う。

ハ「終わったら、せっけんでよく手を洗ってね。うがいもした方がいいよ。」

彼は、言外で、「あまり体にイイことではないからね」と教えて下さるのであった。

ちなみに、この大掃除に、部長ナルシー先輩は、来ないか、来ても、椅子に腰掛けて、ミノフスキー粒子を吸うだけであった。

後日、日曜日。バスに乗り、ガラマニ県立美術館へと、集団で赴く、ガラ高美術部員一行。今日は、ハレの日だ。苦労して搬入した、自分たちの作品が、県展に入賞したかどうかを、皆で見学に来る日である。

俺「あ、あった!やった、初出品、初入選。」

俺が、締め切り前日に、手のひらで塗りたくった、百号油絵は、入選であった。

県展では、入選が最下位入賞で、落選した作品は、展示される事はない。
今日、搬出日に、各校の出品者自身が、持ち帰るのだが、展示会場の壁から、自らはずして帰る者、入賞者と、奥の倉庫から、展示されなかった、落選した作品を持ち帰る者とに、明暗が分かれるのだ。

1年生部員の俺は、ガラ高の仲間たちが、入選したか否か、壁面を見渡した。

あっ、濃い毛先輩の油絵、入選。ミリタリー先輩の立体も、入選。

わあ、和光先輩の、デザイン画は、準優秀賞だ。やっぱ、みんな、すごい…

そして。

部長・ナルシー先輩の、50号デザイン画は、デザイン部門、最優秀賞!
つまり、県展、高校の部、デザイン部門の1位である。体育会系で言うなら、県大会個人優勝である。

さすが、部長だ。いやさ、さすがは、ナルシー先輩だ。おさえる所は、ちゃんとおさえる人だ。

最優秀賞の作品を、手伝った、女子部員たちも、誇らしげに、県美術館の、広い壁面の、スポットライトで照らされた、その絵を見つめた。

ナルシー作品に、明治ブリックパックで雇われた、演歌の女子先輩が、つぶやく。

「部室で見るときとは、全然違って見えるね。ライトのせいかな…くす。輝いて見える。」

そうですね、せんぱい!ライトのせいではない、これは、県展最優秀賞の輝き、我ら、ガラ高美術部、部員一同の、感無量の、かがやきですね!

そこへ、学ランのポケットに、両手を突っ込み、前髪をフサフサなびかせた、当の本人、ナルシー先輩が、ゆうゆうと歩んで来た。

「すごいですね!」「おめでとう、ナルシーせんぱい。」と口々に言う、我ら女子部員たちを、

「まあね。まあね。」

と言いながら背中にし、己が絵の前に立ち、ロダンの『考える人』のように片手を顎にあて、じっと絵を見つめて、彼は、なにか、つぶやいている。低い声だが、我々女子に、聞こえるように、思いっきり、意識して、言っている。

「天才か…フフフ…天才は、勝つか…フフフ」

それさえ、言わなきゃ、そのナルシーさえなきゃ、いま、尊敬してたのにさ。せんぱい。

「県立ガラマニ高校 ~美術部編~ 」 終わり